中東紛争がアジア太平洋地域の経済と事業用不動産に与える影響
現状の整理
紛争の影響により、ホルムズ海峡は実質的に閉鎖された状態が続いています。イラン当局の許可により一部の船舶は通過できているものの、その数は通常時の海上交通量のごく一部にとどまっています。
紛争以前、ホルムズ海峡を通過する原油および石油製品は1日あたり約2,000万バレルで、これは世界の海上石油貿易量の20~25%に相当します。特にアジア太平洋地域は、輸入石油の80%以上を同海峡に依存しており、影響はより深刻です。
国内消費に占めるエネルギー純輸入比率
出展: World Bank, Moody’s Analytics, Cushman & Wakefield
中東からの輸入比率
出展: Atlas of Economic Complexity, Moody’s Analytics, Cushman & Wakefield
石油取引の減少による直接的な影響は、ガソリンスタンドで顕著に見られています。燃料価格は世界各地で上昇し、国によっては最大68%の値上がりが確認されています。アジア太平洋地域でも影響は大きいものの、状況は国ごとに大きなばらつきがあります。
日本や中国本土のように、200日分を超える戦略備蓄を保有する国では、その備蓄放出がショックを和らげる一助となっています。この結果、ホルムズ海峡が世界の石油取引の約4分の1を占めているにもかかわらず、世界全体の消費量は5%ほどしか減少しておりません。国際エネルギー機関(IEA)および各国による協調的な備蓄放出も、こうした耐性の一因です。
一方で、東南アジアの新興国を中心に、燃料不足によりさまざまな配給措置が実施されています。具体的には、燃料購入量の制限、一般市民の運転可能日の制限、在宅勤務の義務化、学校での対面授業日数の削減などが含まれます。
これらの中間に位置するオーストラリアのような先進国では、備蓄が限られているため、供給を確保する為にスポット市場での石油調達に頼らざるを得ない状況となっています。
市場の反応
紛争の経済的影響が全面的に現れるまでには時間がかかりますが、高頻度データからは不確実性が高まってきていることが浮き彫りになっています。世界の株式市場は乱高下しており、報道内容に応じて市場心理が動き急激な売買が繰り返されています。
今後30日間の市場ボラティリティ期待を示すVIX指数は、2025年の大半は20を下回っていましたが、3月27日には31まで上昇し、その後3月31日には25まで低下しました。一般に30を超える水準は高い市場不安を示します。
株式市場指数(日次、2026年1月2日=100)
出典:各国株式市場、Cushman & Wakefield
変動性が高まっているにもかかわらず、世界の企業景況感は総じて底堅さを維持してきました。紛争初期段階では急落した後に反発しましたが、直近(3月31日)の指標では、原油価格の急騰を受けて再び低下し始めています。紛争の長期化次第では、この耐性が維持される保証はなく、景況感が大幅に悪化するリスクもあります。
関税と小売価格
中東紛争はすでに長期化しており、経済的影響が現れ始めています。第1の影響経路はインフレであり、主に燃料価格の上昇に起因し、その後サプライチェーンや生産活動全体二次的、賛辞的な影響が波及していきます。
ホルムズ海峡は主に石油輸送路として認識されていますが、石油化学製品や肥料を含むその他製品の重要な輸出ルートであると同時に、中東向けの食料、医薬品、テクノロジー製品の重要な輸入ルートでもあります。すでに北半球の春の作付けシーズンを前に、肥料供給への懸念が高まっており、作物収量への影響も懸念されています。同様に、石油化学製品に依存する包装資材の供給リスクや、極端な場合には製造業の生産停止リスクも指摘されています。
仮に紛争が即時終結したとしても、原油生産や海峡を通じた貿易が紛争前の水準に戻るまでには時間を要します。また、経済への影響は時間とともに非線形に拡大するため、紛争が長引けば長引くほどその影響はより大きく、かつ広範になります。
3月時点のベースライン予測では、米国最高裁の判断を受けた関税政策の変更と、4月までの紛争終結を前提としていましたが、現状では楽観的と見られます。インフレ圧力はすでに債券市場にも織り込まれ、利回りの上昇として表れています。
中央銀行の対応は国によって異なりますが、過去の危機の教訓から、データに基づく慎重な姿勢が予想されます。その一方で、対応が後手に回るリスクもあります。多くの中央銀行は、供給要因による一時的なインフレ上昇を重視せず、サービス価格、賃金、インフレ期待への広範な波及効果に焦点を当てる可能性が高まっています。
紛争前、アジア太平洋地域の大部分のインフレ率は比較的低水準にあったため、中央銀行には一定の余地があります。最終的には政策対応は利上げという形をとる可能性もありますが、予想されいてた利下げの延期や中止という形で表れる可能性もあります。結果として、2026年の地域経済成長率は、最新予測の4.0%を下回る公算が大きくなっています。
アジア太平洋のインフレシナリオ
S1=上振れ(10パーセンタイル);S3=下振れ(90パーセンタイル);S4=下振れ(96パーセンタイル
出典:Moody’s Analytics、Cushman & Wakefield
アジア太平洋地域の実質GDP成長率のシナリオ
S1 = 上昇幅の上位10パーセンタイル;S3 = 下落幅の下位90パーセンタイル;S4 = 下落幅の下位96パーセンタイル
出典:Moody’s Analytics、Cushman & Wakefield
メインストリートの未来
当社の見解では、事業用不動産(CRE)の需要に対するより長期的な影響は、主にマクロ経済を通じて波及する可能性が高いと考えられます。とはいえ、短期的にも注意すべき潜在的な影響も存在します。こうした影響の発生時期や程度は地域やセクターによっても異るでしょう。当社が注視している主な課題は以下の通りです。
物流・サプライチェーン
- 燃料価格の上昇や地域的な燃料不足が相まって、国内外を問わず物流に支障が生じることになるでしょう。特に軽油価格の上昇はトラック輸送業界により大きな影響を与える一方、海上輸送では保険料の上昇もコストが増加する要因となっています。
- これにより、商品価格の上昇や二次的なインフレ効果を引き起こすとともに、さらには断続的な製品不足が生じる可能性があります。建設業も例外ではなく、新規供給は年初想定以上に鈍化するリスクがあります。
- 一方で、パンデミック以降、サプライチェーンは「ジャストインタイム(必要なものを必要なだけ)」から「ジャストインケース(万が一のための安全在庫確保)」へと移行し、在庫水準の引き上げ、調達先の分散、デジタル可視化の導入が進んでおり、一定の緩和効果は期待されます。
リテール
- リテールセクターもサプライチェーンへの依存度が高く、上述の影響はこのセクターにも当てはまります。
- 輸送コストの高騰は、燃料費そのものを超えて価格上昇を招きます。例えば、オックスフォード・エコノミクスによると、米国では燃料価格が1セント上昇すると、年間換算で15億米ドルの消費支出増に相当します。
- 家計はより保守的な支出パターンに抑えるようになり、生活必需品を優先し、貯蓄にまわすなど、より慎重な支出行動を取る可能性が高まります。
オフィス
- オフィス市場への短期的影響は地域差が大きく、より広範な影響は徐々に表れるでしょう。東南アジアの一部市場では、燃料不足により在宅勤務がすでに導入されています。
- また、公共交通機関が十分でない地域では、燃料費高騰を避けるため、自主的に在宅勤務を選択する従業員が増える可能性もあります。
- 長期的には、景気減速や雇用環境の悪化がオフィス需要を抑制するリスクがありますが、現時点では企業景況感の底堅さから、差し迫ったリスクとは見られていません。
キャピタルマーケット
- アジア太平洋の事業用不動産(CRE)投資は、2026年初から好調に推移しており、2月末時点で投資額は320億米ドルと、前年同期比16%増となっています。
- 投資家は中央銀行のメッセージや金利動向を注視しています。現在の利下げ局面では不動産利回りの変動が限定的であることから、当面は利回りに上昇圧力が生じるとは予想していません。
- もっとも、地政学的リスクが高まる局面では、リスクプレミアムの拡大や投資判断の選別が進み、取引は一時的に減速する可能性があります。
- 長期的には、投資家は地域戦略を見直すとともに、防御力と成長性を兼ね備えた、より回復力のある資産に注力を強めると考えられます。
- 不確実性が解消され次第、投資活動は再び活発化し、先行投資を行う投資家にとっては好機が生まれる可能性があります。
NEED COMMERCIAL REAL ESTATE ADVICE?
Contact our team for the latest on the real estate markets.
Related Insights
Research • Economy
How the Middle East Conflict Is Shaping Europe’s Economy and Commercial Real Estate
Research • Economy
Middle East Conflict: Implications for Energy, Inflation, and CRE